得意なことで地域の役に立てる! 自信が後押しした一般就労への挑戦
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高橋朋さん
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2024.03.27
「福祉と私」は、福祉の現場でさまざまな取り組みを実践している人たちが、それぞれの立場から福祉を語る連載です。
今回ご紹介するのは、JR敦賀駅から徒歩2分の場所にある社会福祉事業「ふらっぷ」。2017年に開設した就労継続支援A型事業所として約20名の利用者がさまざまな作業を行っています。ふらっぷでの仕事を通して働くことへの意欲が高まり、一般就労に向けてチャレンジしている高橋朋さんにお話を伺いました。
手先を使う仕事で社会復帰を目指す
ーーふらっぷで働くようになったきっかけを教えてください。
ふらっぷには2020年の7月からお世話になっています。もともとは大学を卒業して、新卒で会計事務所に就職したのですが、職場内の人間関係がよくなく、パワハラのようなことが続いて会社に行けなくなってしまいました。医師から休養が必要と診断され、休職を経て会計事務所を退職することになったんです。
その後、しばらくの間ゆっくり過ごし、社会復帰のために一歩踏み出そうと思えるくらいまで回復しました。とはいえ、フルタイムの仕事はまだ医師から止められていたこともあり、まずはB型事業所で復職しようといくつか見学することにしました。
実際に体験もさせてもらいましたが、B型の報酬は「工賃」というかたちでお金をいただくので、市外から通う私は往復の交通費だけで赤字になってしまう場合があることもわかりました。それならA型事業所から挑戦してみてはどうかと、知人から敦賀のA型事業所を何ヶ所か紹介してもらい、その中からふらっぷで働くことに決めました。
ーーふらっぷに決めたのはどうしてですか?
ふらっぷは組み立てや封詰め作業、オリジナル商品の製作などをメインに行っていますが、なかでも紙粘土や布を使った商品などを作る際は細かな作業が不可欠です。私も昔から工作やプラモデルの組み立てを趣味にしていたので、手先を使う作業が好きでした。ふらっぷなら、自分の得意としていることで社会の役に立てそうだと思ったんです。
ーー最初はどんな作業からはじめたのでしょうか。
まずはシールを貼るなど単純な仕事から始め、すぐに電子部品やケーブルの組み立てを任されるようになりました。決められた手順でパーツをセットし何本もあるケーブルをコネクタの正しい位置に差し込んでいきます。間違いがないように神経を使う作業なのですが、すぐに慣れて問題なくできるようになりました。
一つずつ手作りする敦賀の新名物「敦ガチャ」
ーーやはり手先が器用なんですね。今担当している仕事についても教えてください。
2021年に、敦賀の名物などを題材にしたストラップやマグネットを「ガチャガチャ」にして販売する「敦ガチャプロジェクト」がスタートし、その商品づくりを手がけています。ソースカツ丼やかにパイ、豆らくがんなど本物そっくりのリアルなストラップでとても人気なんです。
私が担当したのは「ソースカツ丼」と「へしこソフト」。ソースカツ丼は、まず器の部分を紙粘土で型抜きして乾かします。器の中にはペップというビーズみたいなものを樹脂粘土に混ぜてごはんのように盛り付けていくんです。その上にカツを乗せて絵の具でソースをつけて蓋を接着。最後にたくあんのチャームをつけたら完成です。細かい作業が多く、器の絵付けも一つひとつ筆で描いていきます。これを1週間に20個くらい作っていますが、発売した時は反響が大きくて生産が追いつかないこともありました。
ーーすごくリアルで手がかかっているんですね。
そうですね。ふらっぷではほかにもスイーツデコのキーホルダーなども作っているのですが、本物に近づけることにこだわりを持っています。どうすればよりリアルに見えるか、職員の方が本物を買ってきて見比べて、利用者が作業しやすい作り方を考えてくれているんです。
例えば、敦ガチャの「皮ようかん」ストラップも白い粘土でできているのですが、まるで本物みたいな質感だと言われます。相応のクオリティじゃないと、我々に期待して任せてくださっているお店の方に申し訳ないので、妥協のない作り込みを大事にしています。
地域の人に喜んでもらう姿がやりがいに
ーー実際に「敦ガチャ」を手に取る方を見かけることはありますか?
ふらっぷは敦賀駅から徒歩2分の場所にあるので、いろんな方が行き交います。駅を利用する時に「敦ガチャ」の機械で楽しんでいる方を見かけることもありますね。
自分が手がけたもので誰かが喜んでくれる姿を見るとはげみになります。そういう意味では、「敦ガチャ」以外にも、私にとって大事な商品があるんです。
ーー高橋さんが大事にしている商品って何でしょう?
年末に敦賀の神楽商店街で販売している「神楽のしめ縄かざり」です。真っ赤な鯛に東浦みかん、気比の松原をイメージした松、敦賀の名産品である昆布が使われたしめ縄で、気比神宮にお清めをして商店街のみなさんに毎年お届けしています。市内のいろんな事業所で分担して作っていて、私は鯛の部分の絵付けを担当しました。
敦ガチャと並行して作っていたので、秋頃は目が回る忙しさでした。でも、無事完成して商店街の方にお渡しできた時にみなさんすごく喜んでいただいて。そういう反応をいただけたのが本当に嬉しかったです。
ーーふらっぷで働き始めて変化を感じることはありますか。
自己肯定感はものすごく上がりました。前職を辞めてからはどん底で苦しい時期を過ごしましたが、ふらっぷで自分の得意なことを活かして働いているうちに「私でも喜んでもらえることがあるんだ」と自信がつきました。親も私の姿を見て「前より表情が明るくなった」と言ってくれるようになりました。
就職活動の時から「私は何者になるんだろう」「得意なことを見つけられるのだろうか」と考え続けてきました。でもそれは最初から自分の中にあったんだなと。手先を使って仕事をすることが、私にとって社会に貢献できる一番の方法なんだとわかりました。
3年間の経験を自信に変え、公務員試験に挑戦
ーー今後、やってみたいことがあれば教えてください。
ふらっぷで仕事をするようになって3年経ちます。事業所内の仕事はほとんどマスターしたので、今年に入ってから次のステップに進みたいと思えるようになりました。「敦ガチャ」や「しめ縄」を通してまちの人に喜んでもらうことに喜びを感じたので、より直接的なかたちで地域に貢献できればと、思い切って公務員試験にチャレンジしました。
結果は残念ながら不採用だったのですが、最終面接まで残ることができました。右も左もわからない状態での挑戦だったので、得るものはたくさんありましたね。もちろんここで諦めず、来年も挑戦するつもりです。
ーーナイスチャレンジですね!一般就労に向けて不安に感じることはありますか?
一度就職して正社員で働いたという経験がありますし、何よりふらっぷで3年間で積み上げてきた自信があるので、働くことについてはそんなに不安には感じていません。
ただ、今は午前10時から午後の3時までが勤務で、1時間休憩なので4時間労働です。それがフルタイムで就職すると倍の8時間になるので、そのギャップは気になりますね。私は作業の間、集中しすぎて毎日帰宅すると燃え尽きてしまうんです。一般就労に移行する前に、段階的に勤務時間を増やして慣れていけるような環境があるとありがたいです。
ーーたしかに。そのような仕組みができれば、もっと一般就労にチャレンジする人が増えるかもしれないですね。
ふらっぷは開設して6年目ですが、まだ一般就労に進んだ利用者はいないんです。そんななかで今回、思い切って公務員の採用試験に挑戦したのは、私にとって大きな経験になりましたし、一緒に働くほかの利用者を勇気づけることができたのではないかと思います。これからも一般就労に向けて臆することなく場数を踏んでいきたいと思います。
あなたにとって福祉とは
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高橋朋さん社会福祉事業「ふらっぷ」利用者
2020年7月に社会福祉事業「ふらっぷ」に入所。手先が器用な強みを活かして、入所直後から細かい作業を手がける。2021年からスタートした敦賀名物をモチーフにしたガチャガチャ「敦ガチャ」や敦賀・神楽商店街で配られる「神楽しめ縄かざり」の制作にも携わるなど、今では事業所内の作業すべてをマスターするほどに。現在は次のステップとして一般就労に向けて就職活動中。