病院とつながる就労支援の現場で、利用者の生活を見守る
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石本愛理さん
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2025.03.19
「福祉と私」は、福祉の現場でさまざまな取り組みを実践している人たちが、それぞれの立場から福祉を語る連載です。
福井厚生病院の敷地内にある就労継続支援B型事業所「ジョブトライ・厚生」。ここでは、病院で使用するタオルや入院着の洗濯を主な作業としながら、精神疾患を持つ方々の就労支援を行っています。開設から2年目を迎えたこの施設で、日々利用者の生活支援に携わるソーシャルワーカー・石本愛理さんに、仕事のやりがいについて話を聞きました。
病院と直結した就労支援事業所
ーージョブトライ・厚生は病院の中にある就労継続支援事業所なんですね。
はい。これまで病院内で使うタオルや入院着などは、外部で洗濯していましたが、施設内で循環させることができればいいよねという話がありました。また、「働きたいけど仕事が見つけられない」「就労につながらない」という患者様からの相談も多かったため、病院内のストレスケア課と連携し、働きたいと願う人々がスムーズに支援を受けられるように設立されました。
ーーどんな方が利用されているのでしょうか。
登録している利用者さんの数は35〜36人で、男女比はほぼ半々です。登録者の7割が厚生病院の患者なので、病院との連携が密に取れるのが大きな特徴です。精神科に入院していた方が退院後に仕事をしたいと考えた時、すぐにB型事業所の体験ができる環境が整っており、1時間からの体験参加も可能なので、利用者自身が納得したうえで通所を決められるのもポイントですね。

適度な距離感で長期的な支援を行う
ーー石本さんはジョブトライ・厚生でどのような支援をされているのでしょうか。
私の主な仕事は、利用者さんがスムーズに働けるよう生活面の相談に乗ることです。相談の多くは精神障害に関連したもので、「眠れない」「朝起きられない」といった生活リズムの乱れをどう改善するかが重要なテーマとなります。
また、事業所内外の人間関係に悩む方も多いので、適切な距離感で話を聞くことも大切な役割です。必要に応じて病院とも連携し、利用者が最適な支援を受けられるよう調整しています。病院直結だからこそできるサポートですね。

ーー石本さんが福祉の仕事を志したきっかけは何でしたか。
高校時代に卒業生のインタビューで社会福祉士という仕事があることを知り、「そういう世界があるんだ、私も入りたい!」と思ったのが、福祉の仕事を志したきっかけです。昔から人と話すことが好きだったのと、身近に自閉症の知人がいたこともあり、障がいのある方と接することに抵抗はなかったんです。私にぴったりの仕事かもしれない!と思いました。
大学進学後は障がい者支援のボランティアにも積極的に参加し、精神疾患の分野に興味を持つようになりました。最初は「この人たちは何を考えているんだろう?」という純粋な興味から関わり始めましたが、接していくうちに、彼らの素直な反応が嬉しくて、どんどん福祉の世界に惹かれていきました。

ーージョブトライ・厚生で働いて2年目だそうですが、それまではどのような仕事をされていたのですか。
大学卒業後、医療の分野から精神障がいの分野を学びたいと厚生病院内の医療ソーシャルワーカーとして入職しました。入職直後は希望していた精神科に配属になりましたが、厚生病院はソーシャルワーカーの数が多いので定期的に異動があるんです。病棟が変わる度に新しい知識を学ぶ楽しさと大変さがありました。
病院では退院して自宅に戻るところがゴールでしたが、就労支援では利用者の生活全般を支えながら、働くための環境を整えていくため、はじめは医療と福祉、支援の違いに戸惑いましたね。一方で、長期的に関わることでより深い支援ができる手応えも感じています。まさに利用者さんの「生活を見る」ことに関わっているんだなと思いました。
ーー生活を見る、とは?
メインは就労ですが、仕事をする土台は日々の生活にあります。例えば「仕事はしたいけど外に出られない」といった方がいるならその要因を探り、改善のお手伝いをすることも私たちの仕事の一環です。利用者さんと話をすると、多くの方が「お金が必要だから仕事をしなきゃ」と答えます。また、「社会で生きていくためには仕事をしていないといけない」と強いこだわりを持つ方も少なくありません。だからこそ、就労支援を通して、生活全般を長期的に見守ることが大切なのだと感じています。

ーー利用者さんと接する際に心がけていることはありますか。
利用者さんとコミュニケーションを取る時の表情に気をつけていますね。マスクをしていても、目元の表情から人柄は伝わるので、「この人なら話しても大丈夫」と思ってもらえるよう、柔らかい雰囲気を大切にしています。「石本さんに話してよかった」と言われるのはとても嬉しいですが、相談内容は職員同士で共有し、一人で抱え込まないようにすることも心がけています。
「働く」ことを通じて生活の充実を感じられるように支援する
ーー福祉の仕事に携わって成長したなと感じる部分はありますか。
目の前のことに必死で、なかなか普段ダイレクトに成長を感じることは少ないですが…。福祉の仕事を始めてから人と接することに恐怖心や抵抗感がなくなり、どんな人と対峙してもフラットな対応ができるようになりました。さまざまな病棟で経験を積ませてもらったので、いい意味で肩の力が抜けてきたんだと思います
特に私の上司でもあるソーシャルワーカー室の課長は、知識が豊富な上にオールマイティで、いるだけで安心感があるんです。「その人のもとで働きたいから」、というのも今の職場にいる理由のひとつ。自分もいつか上司のように成長したいなと思っています。

ーーー福祉の仕事に興味を持っている人に伝えたいことはありますか?
福祉の仕事は、未経験の人にとって入りづらい世界かもしれません。でも、生活支援なら経験がなくてもできることはたくさんあります。もっと世間のハードルが下がって、福祉の世界に関わる人が増えてくれたら嬉しいなと思います。私も現在、相談支援専門員の資格取得に向けて勉強中です。今後も就労支援から生活全般を支える仕事にますますチャレンジしたいですね。
あなたにとって福祉とは

Profile
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石本愛理さんジョブトライ・厚生 社会福祉士・精神保健福祉士
愛知県岩倉市出身。高校の時に社会福祉士の仕事があることを知り、福井県立大学社会福祉学科に進学し、福祉について学ぶ。卒業後は医療法人厚生会 福井厚生病院に入職。社会福祉士として精神科や一般病棟などを経験し、2023年ジョブトライ・厚生に異動。就労支援を通して利用者のより良い暮らしづくりをサポートしている。