主体的に働ける仕事をつくる。利用者と向き合い、たどり着いた就労支援のあり方

  • 池田昌平さん

  • 2024.03.27

「福祉と私」は、福祉の現場でさまざまな取り組みを実践している人たちが、それぞれの立場から福祉を語る連載です。

私たちが訪れたのは、福井市にある総合福祉施設「あけぼの園」。身体障がいと知的障がいを併せ持つ重度重複障がい者が主に通所し、自活訓練や職業訓練を行っています。今回はサービス管理者を務める池田昌平さんに障がいのある方がイキイキと働ける環境づくりについて伺いました。

祖父の介護から感じた福祉サービスの重要性

ーーあけぼの園について教えてください。

あけぼの園は障がいのある方のなかでも重度の方や重複障がいを持つ方が利用する施設です。生活介護、就労支援、グループホームやショートステイなど生活・仕事・暮らしを全面的に支援しています。

就労支援については就労継続支援A型事業の「ハイムあけぼの」、就労継続B型の「ホープあけぼの」や同じくB型でパンやお菓子を作る「手作り工房コスモス」、就労支援の「ワークあけぼの」があり、私はその3事業のサービス管理者として統括しています。

ーー福祉の仕事をはじめたのはいつからでしょうか。

平成12(2000)年4月にこちらにきました。あけぼ園は平成10(1998)年6月に開設したので、ちょうど1年半くらい経った頃ですね。大学は県外で、卒業後は地元・福井に戻りたいと思って県内のIT企業に入社したのですが、配属が四国だったんです。そこで3年ほど働くなかで将来のことを考え、福井に戻ろうと思いました。

ーーITの仕事からなぜ福祉の業界に入ろうと思ったのでしょうか。

18歳まで実家で祖父と同居をしていたのですが、大学と就職で7年ほど福井を離れている間にアルツハイマー病が進行し、みるみるうちに元気がなくなっていったんです。実家に帰る度に様子が変わっていきました。

意思疎通ができなくなり、昼夜逆転や異常行動が増えていくと、もう家族だけで支えていくのは無理があるなと思いました。だからといって、隣近所に助けを求められるわけでもありません。

ーー当時はまだ今ほどデイサービスなども充実していないですよね。

そうですね。やはり基本は家族が見ないといけない状況でした。

ある時、帰省中にたまたま特別養護老人ホームへの祖父の送り迎えを手伝ったことがありまして。福祉施設でどんなことをやっているのかをはじめて知り、福祉の公的なサービスの大切さを感じました。そのことをきっかけに思い切って仕事を辞め、金沢にある介護の専門学校に入ったんです。

もともと地元で働きたいという思いもあったので、学校を卒業後、「あけぼの園」に就職しました。

言葉はなくても心で通じ合う関係性

ーー「あけぼの園」は障がい者の方を対象にしていますが、そのあたりは大丈夫でしたか。

はじめは老人介護の道に進もうと思っていたのです。老人介護はどちらかというと終末期を維持する、もしくはおだやかな余生を過ごすための手伝いをするイメージ。しかし、障がい者や障がい児は介助を通じていろんな可能性を引き出すことができる。福祉を前向きに捉えられるのではないかと思い、障がい者を支える仕事に進もうと決めました。

ーー「あけぼの園」ではどんな仕事からスタートしたのでしょうか。

最初の8年間は障がい者の方の生活介護を担当していて、肢体不自由の方や重度の重複障がいを持つ方の支援をしていました。

老人の方はまだ一応認知機能があり意思疎通ができるのですが、最重度の障がい者の方はコミュニケーションが取れないので、はじめの頃は悩みましたね。

でも、1、2年と関わっていくうちに、私の顔や声を認識してくださるようになり、言葉を介してのコミュニケーションはなくても、私からの問いかけに反応してくれることが少しずつ増えてきました。言葉だけではなく、心が大事なんだなと感じましたね。

ーー印象に残っている利用者さんはいますか。

いろんな方が浮かびますが、思い出に残っているのは私がまだ入って間もない頃に担当した20歳くらいの若い方。「白いブリーフに名前を書いてほしい」とお願いされたので名前を書いたのですが、こだわりの強い方で、少しでもずれるとどこでも脱ぎ出してしまうのです。

無理に履かせようとしても頑として譲らず、真夏の暑い日にトイレでその方と半日くらいこもって諭したことがありました(笑)。

ーー心で通じるために、具体的に心がけてることはあるのでしょうか。

その方と同じ視線に降りて、目を見て自分の気持ちを伝えることです。車椅子の場合はどうしても上から見下ろすようになってしまうので、そこも必ず同じ目線を意識しています。言葉では伝えられなくても「一緒にいてうれしい」「これはやったらあかん」ということを手振り身振りをまじえて表現するようにしていますね。

「正解の支援はこれですよ」というものはないので、とにかく毎日毎日その方との関わりのなかでの積み重ねです。自分の気持ちを伝えて、相手に受け入れてもらって、相手の気持ちをいかに感じて、それを返せるか。今に至るまで無我夢中でやってきました。

ーー根気のいる仕事ですよね。

そうですね、気は長くなったと思います(笑)。

私も20年以上この仕事をしていますが、その間に子どもが生まれて成人を迎え巣立っていきました。でも、利用者さんのなかには20年経った今でも関わりのある方がいて、声かけるとリアクションを返してくれます。そういう意味では、もしかすると自分の子どもよりも関係性が濃いかもしれないと思うこともありますね。

「できる仕事を増やす」のが私の仕事

ーー現在は就労支援を担当されているとのことですが、詳しく教えていただけますか。

生活支援を8年間担当したあとは、就労支援に異動になりました。「あけぼの園」ではものづくりを主に、パンや額縁の製造、野菜の栽培を行っています。就労支援の利用者さんは普通にコミュニケーションがとれる方なので、一緒に販売に出歩いたり、企業を回って施設外就労や一般就労に同行したりすることも多いですね。

ーー職員の方はどのようなサポートをしているのでしょうか。

今度は介助ではなく、利用者さんにいかに工賃をお支払いできるか。実際に利用者さんと一緒に作業をしながら、作業の内容や工賃を上げていくための手段を考える仕事内容になりました。

あけぼの園は平成12年に開設してから、ここでパン作りをしていたので、まずは私も利用者さんに混じって、いちからパン作りを覚えてきました。

最初はよく失敗しましたね。いろんな利用者さんが携わった工程の最後に自分が失敗したりすると、申し訳なくて。でもみんなが慰めてくれるんですよ。

生活支援では、私の方から利用者さんに投げかけて反応を見ることがほとんどでしたが、こちらでは利用者さんから普通に訴えがあり、目指す目標もあります。例えば、一般就労を目指す方であれば仕事内容プラス、就労に必要な知識やスキル、コミュニケーション能力など社会で必要なことをお伝えしています。

ーー生活支援の時と“支援”に対する考え方も変わりそうですね。

そうですね。売上を上げるためにはどうすればいいかを意識するようになりました。障がいのある方の仕事って社会に出ると洗い物や掃除など下働きが多くなりがちです。しかし、そのような仕事ばかりでは面白くないですし、働きがいも失っていきます。

利用者さんのなかでも「こんなものを作りたい」「こんな作業をやってみたい」という声があるので、「いかに利用者さんが主体になって、いいものづくりができるか」発想を変えて考えるようになりました。

そのために、「利用者さんのできることを増やす」ということも意識しています。例えば、あけぼの園では県からの依頼がきっかけで、10年以上前から額縁を制作しています。額ってミリ単位の作業で、少しでも長さが違えば歪んでうまく組めないんです。逆に言うと、きっちりしていれば美しいものができる。利用者さんのなかにはきっちりしないと気が済まない方も多いので、うってつけの作業だと思いました。

ーーはじめての作業の場合、慣れるまではうまくできないこともありますよね。

はじめは時間が1.5倍かかるかもしれませんが、それでも任せています。失敗してもどこが駄目だったか考えよう。失敗しないためのやり方でやってみようと繰り返していくと、できるようになるんですよ。普通の方以上に手を抜くことなく自分の役割を一生懸命やってくれますし、正確で出来栄えも良い。

障がいがあるとはいえ、みなさん秘めてる能力があります。私はこれからもそういう方の能力を発揮できるお手伝いをしたいなと思っています。

ーー今後やってみたいことはありますか。

私が就労支援に携わったのは20代後半で、今は50代。利用者さんも同じように歳を重ねているので、体力的にも無理がきかなくなっています。今は額縁やパン、野菜づくりをしていますが、今後、年齢が高くなっても自分たちが主体となってできる仕事を考えていきたいと思っています。

あとは、利用者さんが社会の場に出れるような場所をつくりたいですね。あけぼの園で作ったものはほぼ卸がメインですが、時々イベントに出店すると「あそこのスーパーに置いてるよね」「ほかで買える場所はないの?」と言われることも多いんです。いつか店舗を持つことができれば利用者さんの新しい可能性が増えますし、地域の方の認知も変わるはず。それがこれからの私の目標です。

就労支援は私たちのような職員が主になっているようではまだまだです。利用者さんが主体的に動いて仕事として回っていく、そのような状態が生まれてこそ、初めて我々の仕事の評価だと思っています。

あなたにとって福祉とは

Profile

  • 池田昌平さん
    総合福祉施設「あけぼの園」サービス管理者

    2000年4月にあけぼの園に就職。最重度の障がい者の生活支援に携わり、2008年から就労支援に携わる。現在は就労継続支援A型事業、就労継続B型事業、就労支援事業の3事業のサービス管理者として統括している。

    http://www.akebonoen.jp/

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